HOLISTIC BEING DESIGN LAB 慶應SDM 新妻研究室
私達が真に「生きる」ことができる社会をデザインする
私たちの体をバラバラにしてどこを探しても、
それを繋ぎ止め突き動かしている力の源は何なのかを知ることはできない。
しかしながら、それこそがまさに「生命」なのである。
AIなどに代表されるテクノロジーが私たちの仕事を奪う現代において、
私たちが生きる意味について、つまり「生命」について、
あらためて探求する必要があるのではないだろうか。
実はこのような「生命」への洞察は、我が国の伝統に多く存在している。
例えば、野口晴哉の思想の根底にある「凝集と拡散」という視点が
そのひとつである。
また、道元禅師はその主著「正法眼蔵 現成公案」の中で
以下のように言っている。
「仏道をならうというは、⾃⼰をならうなり」
「⾃⼰をならうというは、⾃⼰をわするるなり。⾃⼰をわするるというは、万法に証せらるるなり。万法に証せらるるというは、⾃⼰の⾝⼼および他⼰の⾝⼼をして脱落せしむるなり」
これらはどれも、「自分」や「個」を考え直すのに⼤変重要だ。
現代社会は「個人主義」の社会と言われるが、ここでいう「個」というものが一体何を意味するのかということをよく考えてみる必要がある。
道元禅師は、「自己」というものは、私たちが通常考えている「自分」というものとは異なり、自己を忘れることによってこそあきらかになるものであると言っているのだ。
そうであるなら、本当に「個を重視した社会」というものは
どういうものだろうか?
そう考えると、「無意識と意識の調和」という問題が現れてくる。
「自分はこうしたいんだ」
「自分はこうでなくてはならないんだ」
このような意識でとらえた「自分」というものを大事にするのが今の社会である。
しかし、このような「自分」というものは
単なる「かさぶた」のようなものでしかない。
ことさら意識されがちな「かさぶた」の背景には、意識と無意識という対立を超えた「広大な身体」が存在しているのだ。
いかに「かさぶた」だけを意識してしまっても実際には全体の身体の動きが存在しているように、いかに意識でとらえた「自分」を立てた世界で生きていても ーいかに混沌とした迷妄の世界で悩み苦しみ生きることさえ諦めるようなことがあったとしてもー本当は私たちが生きる世界は、このような自意識で捉えた世界とはまったく離れた「公の活動」として動いているのだ。
本当の「個」というものは、
そのような「公の活動」のなかで明らかになるのではないだろうか。
従来の科学は、「全体の身体」の存在を無視して、
「かさぶた」だけを研究してきたのではないだろうか?
真に「生命」の研究をするためには、
全身との関連性のなかで「かさぶた」を含めて論ずる必要がある。
そこで重要となるのが、より広い視点で対象を捉え、内部だけでなく外部環境との相互作用に注意を払うということと、視点の違いを明らかにするということである。
これには、システム思考やシステムズアプローチが関連するが、後者に関しては特に、トランスパーソナル心理学の創設者ケン・ウィルバーの四象限がひとつの参考になる。
例えば私たちが、いわゆる「科学的」に自分たちの体を論じるとき、その視点は往々にして自分たちを外から眺める視点、すなわち「it」の視点である。
しかし、ゲーテなどがいう即対象的思惟はどちらかというと「I」の視点に近いのであって、現代の科学の視点は「it」の視点に偏っていると主張しているとも捉えられる。
このような視点を明確にして議論していくと、全体性を欠いた議論であることを意識しやすい。
より具体的には、やはり人間の理解が重要となる。人間が環境と相互作用して変化する動的なシステムであると捉え、実際に何らかの測定を行うとしても、背景にある人間モデルの仮説があって初めて意味のある分析となるという態度が重要となる。このためには深い経験や感覚に裏付けされた知見をもつ専門家との議論が必須である。ただ測定を行うだけではなく、その背景にある人間モデルの仮説を立てるために様々な思想を多角的に学ぶことも重要であるし、システムやモデルの考え方を用い、学んだ知見を可能な限り一義的に解釈可能な表現に翻訳していくことも計測と等しく重要なことだと捉えている。これは越境的協働が必要となる場面で特に重要な点である。
そこで重要となるのが、より広い視点で対象を捉え、内部だけでなく外部環境との相互作用に注意を払うということと、視点の違いを明らかにすること、そして何よりも、知識だけでなく深い経験と直観による全体的理解に裏付けされた専門家の視点を取り入れる越境的協働である。
人間が環境と相互作用して変化する動的なシステムであると捉え、実際に何らかの測定を行うとしても、背景にある人間モデルの仮説があって初めて意味のある分析となるという態度が重要となる。
ただ測定を行うだけではなく、その背景にある人間モデルの仮説を立てるために様々な思想を多角的に学ぶことも重要であるし、システムやモデルの考え方を用い、学んだ知見を可能な限り一義的に解釈可能な表現に翻訳していくことも計測と等しく重要なことだと捉えている。これは越境的協働が必要となる場面で特に重要な点である。
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 准教授
従来の自然科学で見落とされがちな視点を補うための鍵が「凝集の方向性」にあると考え、これに基づいて生命の本質を探求するほか、この視点が多くの社会問題に共通原因である「脳中枢的作⽤と⾝体的作⽤の不調和」解決の糸口でもあるとし、真に持続可能な社会システムのコンセプト定義を研究している。また、近年は修行体験を活かして、仏教を援用した課題解決アプローチを開発・社会実装に取り組む。
- 1984年
- 東京生まれ
- 2003年
- 開成高等学校卒業
- 2007年
- 慶應義塾大学理工学部情報工学専攻卒業
- 2007年
- 未踏ユースソフトウェア創造事業 準スーパークリエーター認定
- 2007年
- 慶應義塾大学理工学部第二期国際会議論文発表奨励賞
- 2009年
- 同大学大学院理工学研究科開放環境科学専攻前期博士課程修了
- 2009年
- イギリス留学中にスコットランドのサムイェ寺やナンテンメンランなどを通してチベット仏教を学ぶ
- 2013年
- 英国クイーンズ大学大学院後期博士課程(Ph.D)修了
- 2014年
- 禅の修行に傾倒し、京都浄教寺小林隆幸のもとで出家得度
- 2014年〜
- 立命館大学情報理工学部メディア情報学科 助教
- 2020年〜
- 青森大学ソフトウェア情報学部 専任講師
- 2021年〜
- 慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科(SDM) 専任講師
- 2023年〜
- 同大学大学院 准教授